24話 使い分けなくてはいけない
機械を通して声を変えていくと、自分の声とは程遠い低音が流れる。情報を交換する為に、自分の正体を隠す必要がある伊月は、いそいそと作業を進めていった。後は相手の承認を待つだけだ。合図はこの回線に埋め込まれている記号音で確認出来るから、便利なものだ。「もしもし名東だが、お前は誰だ?」 パソコンを通して流れてくる声は思った以上に年上だった。伊月はいつもの調子で演技を開始していく。「初めまして名東さん。そちらがある組織を追っているのは把握している。私もその組織を追っていてね、協力関係を結びたいのだが、どうだろうか?」 本当の自分を隠して役を作っていくのは、刺激があって楽しい。そうやって成り切っていくと、確かめるように声が届いた。「もしかして、お前は」 自分とコンタクトを取りたい人間を頭の中で探っていたらしい。正直、伊月にたどり着いたのかは分からないが、そう簡単ではないだろう。ハッタリの可能性が高い。それを見越して、わざと相手の話に合わせる伊月は、心の中で笑いながらも、冷静を保とうとしている。「それはどっちでもいい、あんたが考えている事で正解だ。それよりどうする、協力関係になるのか、ならないのか、その返答を聞かせて貰わないと話が進めないからな」 薫に作ってもらったパソコンは使いやすい。そしてその中で声以外の環境音を取り込めないように作り変えている。正体をバラす訳にもいかないので、複数の国のサーバーを介して話をしている。「お前の持っている情報には価値があるのか?」「あんたからしたら喉から手が出る程、欲しいものだと思うよ」 ノビラの束ねる組織は彼が考えているよりも、大きな組織になりつつある。日本だけではなく、今では世界にも広がりを見せているのが現状だ。名東がどこまで把握出来ているのかは知らないが、何の足も掴めてない彼らからしたら、機密扱いになる情報だろう。「何の約定もなしに受け入れる事は出来ないのが本音だが、お前の声には思い当たる節がある。今回はその提案を受けよう」「話が早くて助かる